大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(ラ)776号 決定

抗告人 坂上正雄(仮名)

主文

本件抗告を却下する。

理由

抗告代理人は「原審判を取り消す。抗告人の名正雄を博司と変更することを許可する。」との裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

よつて按するに、本件記録に徴すると、抗告人はその名「正雄」を「博司」と改名する許可を求める申立をしたところ、原裁判所は抗告人の主張は戸籍法第一〇七条に規定する正当の事由に該当しないものと認めて昭和三十一年八月六日午前十時東京家庭裁判所において申立人(抗告人)本人及び申立代理人弁護士松山裕三各出頭の上該申立を却下する旨の審判を言渡告知したところ、右代理人は同月二十五日決定正本送達申請をしたので、原裁判所は同日同代理人に対して審判書正本一通を直接交付した。然るに、同弁護士は抗告人を代理して同年九月八日原裁判所に抗告状を提出したことが認められる。

ところで、名の変更の許可についての申立を却下する審判に対しては申立人は即時抗告をすることができるものであつて、家事審判規則第十七条によると即時抗告の期間は即時抗告をすることができる者が審判の告知を受けたときは告知を受けた日からこれを起算すると規定する。そして家事審判法第十四条によると、即時抗告の期間はこれを二週間とすると規定している。然るに、本件においては、本件の申立人である抗告人並びにその代理人は原裁判所において昭和三十一年八月六日原審判の言渡によつて告知を受けたに拘らず同日より二週間を既に経過した同年九月八日本件抗告を申し立てたことは叙上説示のとおりである。家事審判法第七条によると、特別の定めがある場合を除いて審判に関してはその性質に反しない限り非訟事件手続法第一編の規定を準用すると規定し非訟事件手続法第十八条第二項によると、裁判の告知は裁判所の相当と認める方法によつてこれをなすと規定しているのである。従つて原裁判所が申立人及びその代理人弁護士松山裕三の出頭した上、原審判を言渡によつて告知したのは適法であつて、原審判に対する抗告期間は右言渡の日から起算すべきものであるから、本件抗告は抗告期間を経過した後になされた不適法のものと認めなければならない。尤も、本件抗告申立は原審判書正本が申立代理人松山裕三に送達されたときから起算すれば二週間内になされたことになるのであるが、原審判が言渡によつて既に抗告期間の進行を始めた後に審判書正本が送達されてもこれによつて抗告期間の進行については何等影響があるものではない。

以上説示のとおり本件抗告は不適法であるから、これを却下すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 浜田潔夫 判事 仁井田秀穂 判事 伊藤顕信)

(別紙略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例